エジプト小学校理数科教育改善プロジェクト
長期専門家 関 原 睦

北海道教育委員会派遣の
理科長期専門家関原睦先生 |
1.本プロジェクトの概要
国際協力機構(JICA)の依頼を受け,北海道教育大学が中心となって,2003年4月から2006年3月までの3ヵ年にわたり,「エジプト小学校理数科教育改善プロジェクト」を実施している。また,このプロジェクトは北海道教育委員会と連携して進められており,理科,算数2名の現職教員がカイロに派遣されている。
エジプトの教育において,教師主導の“教え込み”を中心とした授業方法の質的改善が重要な課題となっている。この質的改善方向として,教育主体を教師から生徒に移し,「子ども自らが学び,自ら考えるプロセスを重視する一人ひとりの多様な思考を重視した教育=子ども中心の学習」を提示し,それを具体化するためにエジプト小学校理数科の教師用指導書(いわゆるGuide
Book,以下GB)による授業方法を提案している。
筆者は2004年4月から北海道教育委員会派遣の理科長期専門家として理数科教育改善プロジェクトに携わってきたが,今回,これまでの理科の活動内容と成果について報告する。
2.プロジェクト2年目の活動
(1)問題解決型学習の導入
本プロジェクトは,1997年から3年にわたって実施された「エジプト小学校理数科授業改善ミニプロ技術協力」が前身となっており,理科では仮説実験授業の理論に基づいたGB(旧GB)が編集された。
プロジェクト1年目はGBの全面改訂作業中ということもあり,旧GBを使って専門家やNational Center for Education
Research and Development (NCERD)のカウンターパート(CP)により仮説実験授業の理論に基づく実践指導がカイロ市内の4つの言語実験校(パイロット校)の教師になされた。その結果,それまでの“教え込み”に終始していた教師の意識が改革され,子ども達が生き生きと目を輝かせながら積極的に授業に参加する姿が見られるようになったなどの成果が見られた。しかし,パイロット校の教師は,「問題を出して選択肢を与えて,予想を立てさせて,討論をする」という仮説実験授業の運営スタイルを理解するだけにとどまり,どのような問題をどのような順序で子どもに与えるのかなど理論面での理解はほとんどなされていなかった。また,“単元や学習内容によっては仮説実験授業の授業形態が難しいこと”,“教師による演示実験が多くなること”,“子ども達の間に“勝ち組,負け組”をつくりがちになること”,“まとめが不明確になること”など,仮説実験授業の理論に基づく授業方法による場合に生じやすい問題点も浮き彫りになっていた。そのようなことを踏まえ,プロジェクト2年目はそれらを補完する方法として問題解決型学習の理論に基づく授業方法を導入した。問題解決型学習とは,「子どもが学習課題を見出し,課題解決の構想を立て解決し,最終的に結論を導き出す」という授業スタイルである。また,問題解決型学習は授業時間中だけに留まらず,問題解決の一連の流れが,子ども達が日常生活であるいは将来直面するであろうさまざまな問題を解決する過程でも生かされる。導入当初は問題解決型学習の理論に対し,仮説実験授業の理論に傾倒していたNCERDのCPやパイロット校教師たちは多少の抵抗感を持ったようだが,ミーティングや研修会など通して徐々に理解され受け入れられていった。
(2)活動内容
主な活動内容は,パイロット校における実践指導,カイロ県の現職教員向け研修の実施,モデルレッスンプラン(MLP)の作成などである。
パイロット校における実践指導は CPと共に週1回1日ずつ4校を巡回し,教師7名に対して行った。授業前には授業のねらいを確認し,実験方法や板書の内容などについて具体的なアドバイスを与えた。授業中にはオブザベーションシート(OS)を用いて授業観察を行い,授業後には授業反省をし,次回の授業内容の確認を行った。授業の質的改善がなされたどうかについては,毎回CPから提出されるOSの各観点項目の点数を集計して,その合計点の推移から判断した。その結果,回数を重ねるごとに点数が上昇しており着実に授業の質的改善がなされていることがわかる。
カイロ県の現職教員向け研修はカイロ県研修センターで6回(長期専門家3回,短期専門家2回,CP1回)実施され,延べ約170名の参加者を集めた。研修はワークショップ形式で,新GBの作成済みの部分をテキストとして配布し,できるだけエジプトで入手可能な材料を用いて実施した。研修の終了時に研修内容に対してアンケート調査を実施したが,毎回参加者の大部分から肯定的な回答が得られた。
また,GBの改訂にかかわって,CPと共にGBの各ユニットに組み込まれるMLPを作成している。MLPは単元の目標,単元構成,授業の目標,1時間分のティーチングシナリオから構成され,大学の教科教育及び教科専門の教員とメールを通して,検討を重ね完成を目指している。
さらに,長期休業中に日本からの教員研修使節団(北海道,北陸)の受け入れやパイロット校とカイロ日本人学校との授業交流なども実施した。

パイロット校でのミーティング風景 |

パイロット校での授業風景(左から2人目が筆者) |
3.活動の成果
本プロジェクトの活動を通して,子ども達の学力が向上したかどうかを検証するために2004年10月にプレテスト(4年生の履修内容),2005年4月にポストテスト(5年生の履修内容)をパイロット4校とコントロール4校で実施した。テストの出題形式に正誤式,穴埋め式,選択式,記述式をとりまぜ,出題内容は知識・理解だけではなく思考力を問う問題も設定した。
プレテストとポストテストの結果を比較すると,パイロット校ではばらつき具合がそれほど変化していないがコントロール校ではばらつき具合が大きくなっている。つまりコントロール校では,できる子どもとできない子どもとの差が広がったことがわかる。
プレテストの結果を両校で比較すると,平均点については統計的に両校間で差が見られない。ポストテストの結果を比較するとパイロット校ではばらつきがそれほど広がっておらず,平均点も高くなっている。これらから,2年目の活動を通してパイロット校の子ども達の学力が伸びたということが検証された。




4.おわりに
本プロジェクト最終年度にあたる3年目は,カイロ県の現職教員向け研修を活動の中心に据えていく。
GBも1学期中には完成する予定である。今後,GBのエジプト全土への頒布も含め,GBを活用した教育実践のあり方の検討が課題である。 |