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NEWS(研究活動)岩見沢校教員の高酸素トレーニングの持久力向上効果に関する研究論文が、国際的学術雑誌「Physiological Reports」に掲載されました

2024年6月21日

 岩見沢校スポーツ文化専攻・鈴木淳一教授の研究論文「Effects of exercise training with intermittent hyperoxic intervention on endurance performance and muscle metabolic properties in male mice(間欠的高酸素暴露下のトレーニングがマウスの持久的運動能力と筋代謝特性に及ぼす影響)」(DOI: 10.14814/phy2.16117)が、国際的学術雑誌 「Physiological Reports」 (Impact Factor = 2.5; Cite Score = 4.2)に掲載されました。
 

研究の概要

[背景と目的] 

  • これまで、低酸素環境下でトレーニングを実施する、「低酸素トレーニング」は各種の競技スポーツで広く活用されている。当研究室では、反復低酸素暴露下での持久的運動が有酸素代謝能力、特に脂肪酸代謝能力を顕著に高めることを報告している[1]。しかし、低酸素での運動中には意識障害などのリスクが考えられ、また運動後の倦怠感が増すことが知られている。
  • 30%程度の常圧高酸素環境においては、常酸素下よりも高強度の運動トレーニングを実施することが可能であり、高いレベルの運動適応が期待できる[2]。しかし、長期的な常圧高酸素環境+トレーニングが運動パフォーマンス向上に及ぼす効果についての研究はわずかであり、また顕著な効果は報告されていない[3]
  • 本研究では、短時間で高酸素(30%)と常酸素を繰り返す「反復高酸素暴露」を運動中に実施することで、運動時の吸入酸素濃度を変化させた。この方法は、上述の反復低酸素暴露+トレーニングと同様の変化を生体に及ぼす可能性が報告されている[4]。運動中の「間欠高酸素」により「間欠低酸素」と同等の効果が得られるのであれば、運動選手の精神的・身体的負荷を軽減できる可能性がある。これは特に、長期間にわたり高強度のトレーニングを実践するアスリートにとって、より低リスクで有用なエルゴジェニック・エイド(ergogenic aids)になると考えられる。
  • 生体が低酸素に暴露されると、低酸素誘導因子(HIF)の発現が増加し、赤血球を増やすエリスロポエチン(EPO)や解糖系代謝酵素(酸素を使わずに代謝を維持するため)の発現が増加する。しかし、「高酸素」への暴露後に常酸素(21%)で数時間経過すると、HIF[5]やEPO[6]が増加することが報告されている。つまり、「高酸素」状態から常酸素に戻ることを(相対的な酸素分圧の低下)、生体は「低酸素」と認識している可能性が考えられる。
  • そこで、持久的運動をしている状況下で酸素濃度を変動(21%-30%)させることで、より効率的に持久的運動能力を向上させることができるのではないかと仮説を立てた。
 

[実験方法] 

実験にはマウスを用い、小動物用トレッドミルによって、4週間(週6日)以下のトレーニングを負荷した。

1)ET群:20-27.5 m/minの速度で75分間の持久的運動
2)HYP群:高酸素下(30%O2)でET群と同じ運動
3)INT群:常酸素下(21%O2)10分間+高酸素下(30%O2)15分間を3回繰り返す状態でET群と同じ運動
 HYPとINTの実施は週3日(火、木、土)、他の3日(月、水、金)は常酸素で実施した。

[実験の結果]

■持久的運動能力はINT群でET群よりも23%有意な増加が観察されたが、HYP群ではET群との差はみられなかった。

■INT群では、腓腹筋赤色部位(Gr)において脂肪酸代謝を促進する酵素(HAD)が顕著に増加していた。また、腓腹筋白色部位(Gw)、横隔膜(DIA)、左心室(LV)において、解糖系や乳酸由来のピルビン酸をミトコンドリア内で有酸素的に代謝する、ピルビン酸脱水素酵素複合体の酵素活性がINT群で有意な増加がみられた。

■DIAでは、乳酸からピルビン酸を合成する指標(LDH-LP/PL)がINT群で有意に増加していた。脂肪酸代謝に関与するカルニチンアシル基転移酵素-2とHADの値が、最大運動能力との間に有意な正の相関がみられた。

■LDH-LP/PLと代謝機能の促進因子であるNT-PGC1aも最大運動能力と有意に相関していた。
 

[結論] 

持続的な高酸素暴露では顕著な効果は観察されないが、反復高酸素暴露下での持久的トレーニングは、有酸素代謝能力、特に脂肪酸とピルビン酸の代謝能力を顕著に高めることが判明し、持久力の向上に有効な手段であることが示唆された。

 
<参考文献>

1. Suzuki J, DOI: 10.14814/phy2.15534, 2022
2. Richardson RS, et al. DOI: 10.1152/jappl. 1999.86.3.1048
3. Mallette, M.M. et al., DOI: 10.1007/s40279-017-0791-2
4. Amir H & Shai E, DOI: 10.3390/biom 10060958
5. Cimino et al. DOI: 10.1152/japplphysiol.00922.2012
6. Balestra et al. DOI: 10.1152/japplphysiol.00964.2005


※「エルゴジェニック・エイド」とは?

 現在、一般にエルゴジェニック・エイドというと、様々な栄養サプリメントなどが連想されます。しかし、本来の定義は以下の通りです。

 スポーツ分野における、エルゴジェニック・エイドとは、パフォーマンスを向上させる目的で使用される技術・手技または摂取物として広く定義でき、栄養学、薬理学、生理学、心理学、医学等の領域が関与します。

参考文献
Ergogenic aids, Thein LA, Thein JM, Landry GL. Ergogenic aids. Phys Ther. 1995 May;75(5):426-39. doi: 10.1093/ptj/75.5.426. PMID: 7732086.  
 

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