大学紹介学長対談 人材養成への期待と今後の連携に向けて
【学長対談企画】 人材養成への期待と今後の連携に向けて
~未来への投資と銀行・大学のさらなる連携への可能性~
北洋銀行 取締役頭取 石井 純二氏 × 北海道教育大学 学長 蛇穴 治夫
5つのキャンパスをもつ教員養成大学として教育界を中心に数多くの人材を送り出してきた北海道教育大学。平成26年度には、地域社会の強いニーズに応えて、新たに「国際地域学科」と「芸術・スポーツ文化学科」を設置しました。今回、北洋銀行 石井頭取に本学の人材養成への期待や、今後北海道に必要とされる人材についてお話を伺いました。
寄附に込められた思い ~未来への投資と地域人材養成への期待~
蛇穴学長: 最初に御礼から申し述べさせていただきます。本学の教育支援基金に多額の寄附をいただいたことに、感謝申し上げます。教育支援基金を始めてから、この12月で9年が経ちますので、いかに活用するかなどを含めて見直しながら有効活用していきたいと考えています。まず、この寄附に込められた思いについてお伺いすることから始めさせていただきます。
石井頭取: 私どもの銀行は「地域金融機関」として、地域経済を活性化する、あるいは地域の持続的な成長という目的を遂げることにその存在価値があるのだと思っています。最近よくいわれている地方創生の理念にもありますが、私どもは自立的で持続的な社会を実現できるようなさまざまな取り組みをしています。そのような中で教育支援基金が、これから教員になる、あるいは社会に出て行く学生の人材育成事業に活用されているということをお聞きしておりましたので、これからの北海道の地方創生に欠かせない教育あるいは人材育成へ貢献することも当行の使命のひとつと考え、今回寄附させていただきました。
特に教育という分野では結果がすぐに見えてきません。この寄附が北海道の将来を担っていただく子どもたちと学生へ確実に還元されていくと信じておりますし、将来、あるいは未来への投資に、わずかではありますが、繋がれば良いと思っています。
また、景気が低迷している時には、ご両親の経済的な理由で進学を断念した学生がいるということも聞いております。当行は、地域経済を活性化していくことで、経済的な理由によって高等教育機関への進学を断念する子どもを減らすということができると考えています。いずれにしても、これから地域を担っていく人材育成の役に立てていただければと思います。
蛇穴学長: 非常に心強いご意見を伺いました。最後に言われた「進学を断念する子どもがいる。」というところは、本学としても非常に心を痛めています。現実問題として、授業料を払えなくなって退学せざるを得ない学生が、年間何人かいるといった状況にあります。学生支援機構等の公的な奨学金だけではなく、今の教育支援基金のあり方を少し変えて、何とか大学の中でもそういう学生を救う仕組みを作っていきたいと考えているところです。そのためには、さらに目標額を決めて募金活動をする必要が出てくるかもしれません。今回いただいたものも、地域人材の養成に有効に活用させていただきたいと思っています。
本基金の中から、大学院生と学部生に対して、平成25年度ですと52人の学生に計710万円を支給しました。毎年発行している基金だよりに「国際学会に参加して、論文を発表するために使いました。」とか、「この制度のおかげで、自分自身が今まで勉学に励んできたことに対して自信を持つことができました。」というコメントが寄せられ、この基金が有効に使われていると考えています。
今、本学の人材養成に期待をされているというようなお話を伺いましたが、そのことを真摯に受けとめて、本学としてきちんとそれに応えられるような教育を行っていきたいと思います。
それから、先ほどの話に関連させて、本学に入学してくる学生の経済状況を簡単にご紹介させてください。1つ目は授業料免除という仕組みからみたものです。本学の学生数は約5,400人です。そのうちの約1,500人が全額免除、約300人が半額免除の対象資格を持っていて、それは全学生の3割強にあたります。もう1つは奨学金の貸与を受けている学生数からみた状況です。第1種・第2種あわせて5割強の学生が奨学金を得て学んでいるという状況にあります。これら公的な奨学金を受けている学生はまだいい方で、先ほど述べましたように、突然親の都合で収入がなくなったなどの理由で退学を余儀なくされるということもあります。国立大学として、これ以上授業料を上げるというのは困難ですので、頑張って学生の支援策をつくっていきたいと思っています。
北海道の経済的動向を踏まえた本学への期待 ~期待に応えるための学科での人材養成~
蛇穴学長: 経済的な話になりましたので、北海道の子どもたちの家庭が必ずしも経済的に恵まれているわけではないという状況があるなかで、今後の北海道における経済的な動向とか特徴についてどのように捉えられているのか、専門的な観点からお聞きしたいと思います。
石井頭取: 私どもの企業理念のひとつとして、CSR(社会的貢献)というものがあります。その中の大きな柱のひとつに「教育・文化」というものを据えており、今回の寄附はそういった企業理念に基づいたものです。今後さまざまな形で、社会貢献に取り組んでいきたいと考えています。
ご質問にありました北海道の経済状況ですが、まず、地方と中央が大きく二極分化していると思います。日本の経済自体は、ご存知のとおり回復感の強い状況となっており、とりわけ円安によって輸出型の企業がその恩恵を被っている状況で、個人消費も徐々に上向いています。一方で北海道経済においては、円安が下押し圧力になっています。なぜなら北海道経済は輸入に依存している部分が圧倒的に多い産業構造です。例えば農業の肥料や、畜産業の飼料などをほとんど輸入に依存しています。ものづくり企業においても、北海道は電気料金が二度にわたって引き上げられていることで、非常にコスト高になっています。アベノミクス効果自体が地方の末端までいっていないということのほかに、そのような経済的特徴があり、先行きについては、多くの経営者のみなさんが慎重な対応をしています。したがって、なかなか政府が目指しているように好循環な経済構造になりにくくなっています。ただ幸いにして、昨年あたりから海外インバウンドが相当増えており、インバウンド効果が、非常にプラスに向かっています。この効果は、ホテル、旅館業だけではなくて、お土産とか、中国人の爆買いに象徴されるようなさまざまな部門で出てきています。昨年は、154万人の海外の方々が来られました。今年はおそらく200万人を超えると思います。非常に高い伸びを示しており、今後、こういった海外のインバウンド効果をどうやって定着させて、さらに引き上げていくかというところが大事だと思います。
更に、人口減少や少子高齢化という面で、北海道はそのスピード感が、全国トップクラスです。こういった社会の中ではマーケットが縮小していきますから、経済にとってはマイナスですが、一方で、定住人口は減っていきますけれども、交流人口を増やしていけば、経済力という面ではプラスに働きます。北海道は全国各地に比べ、圧倒的にアドバンテージの高い「観光」や「食」などがありますので、交流人口を増やす取り組みをもっとしていかなければならないと思います。北海道新幹線の開業や、海外からの飛行機の路線増などの追い風をしっかり捉え、ビジネスとして定着させていくことが必要だと思います。
いずれにしても、こういった非常に変化の激しい時代にあって、その変化を克服していくチャレンジングな人材が必要になってくると思いますし、ぜひ北海道教育大学さんからそういった人材を供給していただきたい、そういう人材になるような教育を実践していただきたいと思っています。
蛇穴学長: 今、定住人口と交流人口という言い方をされて、北海道が経済的活路を見出す上で、非常にわかりやすいお話を伺いました。
チャレンジングな人材を養成していくという観点からいえば、まさに本学が2つの学科を作って、新しい、これまでにない力を持った人材を養成していく大学になったことを少しアピールさせてください。
函館キャンパスには国際地域学科という学科を設置しました。ここの学生は地域学をベースとして、グローバル化した社会を見据えた地域活性化の事例などを、国内外で実践的に学びます。それにより地域の良さを発見する力、企画力、実行力、そして人をまとめる力を身につけて、地方創生に力を発揮する人材として社会に出ていきます。岩見沢キャンパスに設置した芸術・スポーツ文化学科の学生は、音楽や美術、スポーツの技量を磨くだけでなく、それらが人を慰め、元気づけ、一体感や絆を生み出す力を秘めていることを学びます。さらには、市場調査を含め、ビジネスのノウハウも学んで、マスコミや企業をも巻き込んで、芸術やスポーツによる“生き甲斐づくり・まちづくり・健康づくり”を牽引するような力をつけて地域社会に出て行きます。学科は、今2年目に入っておりますので、我々としても力を入れて
地域の中にきちんと就職させたいと考えています。今お話のあった交流人口を増やす取り組みに力を発揮できる人材を地域に供給できるのではないかと思います。
石井頭取: 海外の方が北海道に来られて、1人大体13万円から15万円くらい消費していただけます。100万人来ると1,300億円の経済効果があり、今年200万人が来ると2,600億円から3,000億円になります。北海道の農業生産額というのは1兆円ですのでそれから比べると、ものすごい経済効果です。もっともっと来ていただいて、消費をしてもらいたい。これからの北海道の観光をどのように展開しなければいけないかというと、長期滞在型にすべきだと思います。北海道は広いですから、しかも同じ北海道でも道南と道東、あるいは道北では自然も、「食」でも全然違います。逆に時間がなくて「また来年行きたいな」というリピーター型にしていくことも必要です。リピーターが来るというのはただ黙っていて来るわけではなく、常に創意工夫し、来ていただく方に前回とは違ったものを提供していくということで実現できます。それこそまさしく、おもてなしの心です。自然は変えることができませんが、ホテルとか飲食店などサービスというものは常に新しい目で提供していくことが必要ではないかと思います。
連携から生まれるもの ~金融教育を出発点として~
蛇穴学長: そうですね。今のお話は、異なる業種が連携することで付加価値を生み出していく、つまりイノベーションが必要だという意味で理解いたしました。
それにしても、頭取のお話はいつも数値に基づいてお話されるところが、説得力・客観性があり、私も学ぶところが多いと思いました。我々も、学生が4年間、あるいは6年間で、こういう力がついているので、ぜひ使っていただきたいというようなわかりやすい資料作りをしていかなければいけないと、今のお話を聞きながら考えた次第です。
貴行と私どもの連携という点で、先駆け的になっておりましたのは金融教育です。これは平成20年度から22年度までの3年間に渡って共同研究をさせていただいたものです。そこから生まれた教材が、非常に学生にとって役立っておりまして、この授業が大変好評です。今後も金融教育について、継続していきたいと考えております。本学の教員養成の学生に対して金融教育を継続して行っていくことについて銀行の立場からはどのようにお考えでしょうか。
石井頭取: 平成16年度に相互協力協定を締結させていただいて、実施させていただいたと認識しています。私は、教育の職に就いている方であれ、一般の民間企業に勤めている方であれ、家庭の中においては今や金融の知識は、不可欠な要素だと思います。かつてのように銀行自体が大きな規制金利の中でどこの銀行でも同じ金利という時代から自由化され、それぞれの金融機関がお客様のニーズに沿った新たな商品を揃えています。それに加え、社会全体を動かす、動いていくという面で金融の役割というのは極めて重要になってきています。そういった面で金融の基本的な知識を身につけることが非常に重要だと思います。
一般のご家庭に入り奥様になられて、家庭の財布の紐を握っている時も、それぞれのライフステージに応じた金融のいろいろな機能をどう使っていくかということが重要になってくると思います。子育て期間、ご自宅を建てる、それから老後の資産をどのように形成していくのか、あるいはいざという時のための資産をどのようにしてそれぞれの家庭の中で形成していくかというのも、重要なことだと思います。
それからもちろん、社会全体が大きく、しかもグローバルな視点で変わってきている時に、金融が与える影響というのは非常に大きくなっています。例えば、先般、フランスのパリでテロがありましたけれども、同時に次の日に、たまたま金曜日だったのですが、世界中のマーケットがそれに注目して動き出す。それはマーケットが動いているだけではなく、我々の日々の生活に即影響してきます。家計の資産に株式や債券をご利用になっている方にとっては、マーケットで価格変動、あるいは金利変動が起きますので、そのような面でもまず金融の基本的なメカニズムがどうなっているかということを知ることは、極めて重要であります。金融が経済社会に与える影響が非常に大きくなっているということが、金融教育の必要性が高まっている理由ではないかと思います。
蛇穴学長: ありがとうございます。今のお話を聞きますと、金融教育を学校教育の中でいえば社会科や家庭科の中でもう少し活かす道が開けそうな気がしますね。つまり、個人と銀行との関係という、個人レベルの消費や生活設計といった問題から、金融業界が社会の産業に与える影響、あるいは産業を育てて社会を大きく動かしていく役割を担っていることなど、歴史や経済の学びと絡めて発展させることができると思いました。
石井頭取: 為替1つにおいても2~3年前までは、ドル円相場というのは1ドル80円台でした。今は120円台ですから、3分の1価格が変わっているわけです。今まで80円で海外から買えた物が、今は120円払わなければならない。ご商売をされている方にすると、為替がこれから円安に振れていくのでないだろうかと考えたら、商売の仕方が変わってきますよね。あるいは学生さんでも、海外旅行に行こうと考えていた場合、いつ行ったらいいのか。為替が80円と120円では、随分違います。120円払って1ドルを買うよりも、80円で買った方がいいわけです。そうすると海外に行った時に少しお小遣いになりますし、そういう知識があるのとないのでは違いますね。
蛇穴学長: そうですね。そういう身近なところで感じとる知識を、先ほどおっしゃっていただいた、円安によって輸入・輸出業界のどちらにどのような影響が出るのか、という社会科の勉強の中で活かさなくてはなりません。日本の学校教育の中で、金融関係の話が出てくるのはどうしても家庭科の方に偏っているのかもしれません。もっと社会を動かす力としての金融業という意識を高めないと本当の意味での役割はなかなか理解されないかもしれませんね。
石井頭取: ただ、健全な家計生活を営むという面では、損益という観点ももちろん必要だと思います。さらに社会全体の変動要因として、金融が関わっている大きなメカニズムを知るというのも一方で必要だと思います。
蛇穴学長: 今後も本学では、中身を少し時代に合うように変えながら金融教育を継続して頑張っていきたいと思います。
さらなる銀行と大学の連携
石井頭取: グローバル社会というものを肌で感じる、あるいは理解するための教育という視点から当行がお手伝いできることはもっとあります。当行には海外で勤務している者がおりますので、海外での生活や現地の状況について、さまざまな学習と関連づけて話すことができます。例えば今、当行には中国あるいはタイ、シンガポールなどで勤務し、最近帰国した者がおりますので、金融という面だけでなくて、実際の海外の状況について、お話することができます。先にも言いましたが、グローバルな視点で、実際に住んでいる方のいろいろな話、現地での生活の様子がどのようなものなのかなどにも関心があるでしょうから、こういった面でもぜひご協力したいと思います。
蛇穴学長: なるほど。大学の講義は1講義が90分ですが、どのぐらいの時間を用意したらそういう話をしていただけるものなのでしょうか。
石井頭取: 90分くらいあれば十分に話せますよ。折角、こういう協定を結ばせていただいておりますので、ぜひご協力したいと思います。
蛇穴学長: そうですね。このようなお話は教員養成の学生にも、もちろんためになりますけど、特化した話をしていただけるのであれば函館地区では非常に良いです。函館校のカリキュラムの中で金融は1つの柱と考えていたので、今のような話をスポット的に特別講義として講義をしていただけると非常に良いかもしれません。
石井頭取: 今はASEANなどもものすごく変わっていますからね。例えば、私たちが習った時のタイだとかバンコクと、今とでは全然イメージが違います。単に一方的な話より、幅広い国際的な話ができるスタッフがおり、定期的に国内に戻ってきておりますので、その時に機会を捉えて連携しませんか。
蛇穴学長: 生の話を聞けるというのは、学生も大変喜びます。このことについては、日を改めて具体的なご相談をさせていただければありがたいと思います。学生も、今の社会や海外の状況を必ずしも正確に把握してないところもありますので、今のような話は大変ためになると思います。
石井頭取: 実学で学ぶということは良いと思いますね。金融論や経済論の専門家は大学にもいらっしゃると思いますが、実際に行って、向こう側の国で今何が起こっていて、どんな状況なのかということを聞くことも重要だと思います。
蛇穴学長: そうですね。まだまだ、大学と連携できる部分というのがありそうな気がしました。
石井頭取: そうですね。
経営の責任者としての 企業経営、大学経営とは
蛇穴学長: 先ほど、企業としても「教育・文化」というキーワードで地域に貢献する活動を行っておられるとのことでしたので、その中での我々との連携の一つが金融教育だったのではないかと考えられますし、それを一つの足がかりにしてもう少し発展した関係作りができそうなお話を今回伺うことができました。
本学は、先ほど言いましたように、教員を養成するだけではなく、学科を設置して地域に貢献するさまざまな人材を育てていくというミッションを持ったわけなのですが、私自身も、この10月1日から学長という職に就いて、初めて法人としての大学の運営と、経営を考えなければならない立場になりました。これまでは「木を見て森を見ず」でも良かったわけですが、今は森全体、山全体を見なければならない立場になりました。国立大学ですので、おそらく一般の方から見れば、予算は確保されているのだろうと考えられていると思いますが、法人化されてからはそうではなく、毎年1%ずつ運営費交付金が削られています。道内7国立大学の運営費交付金はこの11年間で114億円(17%)削減されています。本学のような人材養成を主たる目的とする地域の大学は経営上も非常に困難を極めるようになってまいります。私自身、大学の中で育った人間として、学生の教育・研究という面については多少思うところはありますが、経営ということになると全く畑違いの素人といったところです。
頭取は銀行経営の責任者として、あらゆる分野、領域の企業経営というものを日々ご覧になってきた立場でしょうから、ちょっと畑が違うかもしれませんが、大学の経営や人材養成ということを踏まえて、大学経営の責任者たるべき者の、あるべき姿というものについて、私自身これからどのように考えていったら良いのか、少しご示唆をいただければありがたいと思っています。
石井頭取: 企業である以上は一定の目標を常に持っておりますので、その目標に全社員が同じ目線で一緒に取り組んでいかなければ、なかなか成果は生まれづらいと思います。やはりいろいろな面で常に危機意識を持たなくてはなりませんし、トップも、末端の社員の人も常に同じ認識に立ち、同じ目線で見るということが大事ではないかと思います。また、それに向かわせるために社内でのさまざまなコミュニケーションのパイプを構築していかなくてはなりません。さらに、議論をできる風土にしたいと、職員に声かけしております。議論をするというのは、同じ目線でなくてはいけませんので、今私自身は行内で常に議論をしていく風土を作っていくということに、努力しています。そういった社内の議論を経て得られたさまざまな意見を自分でどう吸収して、それをどう経営に役立てていくのかが重要ではないかと思います。
蛇穴学長: ありがとうございます。昨今、国立大学も「ガバナンス改革」という言葉で言われているように、学長のリーダーシップを発揮できる仕組みを構築することが求められておりますが、今のお話は本当に大切なことだと思いました。議論できる風土。この「風土」という言葉は総合的な状態を意味しているわけで、とても良い言葉ですね。各大学ではそれぞれの文化を作っていますが、本学には5つのキャンパスがあることから、5つの文化があります。ですから、私の場合はできるだけそれぞれの文化の地を歩かなくてはならないと考えています。キャンパスは5つありますけれども、同じ目標に向かって同じ船に乗っているわけですから、同じ方向を向いて進めるように議論をする。議論するという意味は、お互いに持っている情報を出しあって、その情報をどう解釈するかについて意見を述べ、より良い結論あるいは合意点を見出していくことだと思います。それぞれ自分は「これが一番だ」と思っているわけですから、別な主張に対しては「そんな訳はない」となりがちなのですが、そうではなくて、じっくりと根拠に基づきながら議論をしていかなければならないと思います。「全社員が共有する」という言葉は非常に重みがありました。こういう立場になる前の私自身もそうでしたが、一般的に先生方は、自分は研究と教育さえしていれば義務を果たしているのだと考えがちです。しかし、今の私は、私たちも経営的に行きづまったら、大学で教育や研究ができないのだという危機感も併せて伝えていかなければならないし、最終的な責任は学長にあるにせよ、自分たちの大学をどうしていくのかということ、つまり地域から愛される大学として何をしていくべきなのかということは、皆が納得できる雰囲気の中で見出していかなければだめなのだということがよくわかりました。
本日は長い時間ありがとうございました。