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大学紹介平成30年度卒業式式辞

 平成30年度の学位記授与式を挙行するにあたり、北海道教育大学の教職員を代表して卒業生・修了生の皆さんにお祝いと期待の言葉を述べたいと思います。
 本日は、後援会、同窓会をはじめとする、多くの来賓の皆様方、そして保護者の皆様方のご臨席を賜り、平成30年度の学位記授与式を挙行することができました。誠にありがとうございます。厚く御礼申し上げますとともに、関係者の皆様方に心よりお祝い申し上げます。
 学部卒業、養護教諭特別別科並びに大学院修了の皆さん、卒業、修了、本当におめでとうございます。
  本年度の学部卒業者は1,132人、養護教諭特別別科修了者は21人、そして大学院修了者は111人。  合計1,264人となります。

 皆さんが手にする学位記は、課程及び専攻の「卒業認定・学位授与の方針」が定めている、知識・能力・技能・態度が皆さん方にきちんと備わったことを示す証明書です。それぞれの誇りと自信を胸に、社会に巣立って欲しいと思います。

 
 本日ご参列されている保護者の皆様。これまで本学の教育研究にご理解いただき、厚いご支援を賜りましたことに対し、心より感謝申し上げます。
 今一人ずつ名前を呼ばれて立ち上がった皆様方のお子さんは、大学での様々な学びを通じて、間違いなく大人になったと思います。親御さんにとりましては、誕生から、つかまり立ちができるようになり、言葉を覚え、小学校に入学し、そして反抗期を経て今日まで至ったお子さんの、その時々の断片が胸に浮かんでくるのではないでしょうか。
 私にとりまして、本日卒業・修了を迎えた1,264人の、それぞれの人生がどのようなものであったのかは知る由もありませんが、一つの人生の節目にあたって、卒業・修了を祝福したいと思います。

 
 さて、本学は教員養成課程と国際地域学科、そして芸術・スポーツ文化学科を持っています。本学と地域・社会との関わりを少し考えてみましょう。
 
 現代社会に目を向けますと、人口減少社会の到来に伴って生産年齢人口が次第に減少することが見込まれています。それだけではなく、国内市場の拡大が見込めないことから、企業が海外展開する動きが加速しています。そのような社会を背景として、海外で活躍するための語学力と国際感覚、そして自らのアイデンティティを確立すると共に異文化に対する理解と適応力を持った人材、いわゆるグローバル人材が求められています。
 
  また、このような見方もあります。Society 5.0、第4次産業革命と言われる、IoTやAI技術による新たな社会を構築する中で、産業形態が大規模集積型から遠隔分散型へとシフトしていくことが想定されるというものです。それが進行すれば、地方創生を牽引していく人材に一段と大きな期待がかかることになります。
 さらには、高齢化社会・競争社会・ストレス社会の中で、様々な年齢層に精神的な不安や心身の不調が生じているとも言われています。しかしながら、人々が生き甲斐を見失わず、コミュニティでの繋がりを保ち、また、自然との関わりを持ったり、様々な文化的活動やスポーツの力を借りるなどして、心身共に健康に生きていくことは、私たちにとって何よりも大切なことです。
 だからこそ、地域全体を元気にすることや、心の課題に取り組むことのできる多様な専門家と、ケースに応じて適切な協働体制を取りながら活動をマネジメントできる人材が必要となります。
 このように現代社会を捉えてみると、北海道教育大学は、今述べた社会のニーズに応えることのできる多様な人材を養成する、まさに地域に貢献する大学と言えます。
 つまり、 まず第一に、 教員養成課程においてこれからの新しい社会に適応して生きていく子どもたちの、それぞれの能力を伸ばし、その成長を助ける、実に多岐にわたる専門的知識と教育理論を身につけた優秀な教員を世の中に送り出しています。
 それだけではなく、国際地域学科では国際的視野に立って地方創生に力を発揮できるグローバル人材、さらには芸術・スポーツ文化学科で芸術・スポーツの社会的包摂機能を理解して、それを地域住民の生き甲斐づくりとまちづくり、健康づくりに活用できる、マネジメント能力を持った人材を養成し、地域社会の多様な要請に応えています。皆さんがそれぞれの課程や専攻で得た知識や能力を、これからの社会で発揮することに大きな期待がかかっているということです。


 だからといって、期待を過度に受け止めてしまい、それに押しつぶされては何にもなりません。初めは、わからないことはわからないものとして、身につけた基礎をもとに調べ直して、さらに成長した上で期待に応えていけばいいのです。
 論語の中にもこういうくだりがあります。
 曾子曰く、「吾れ日に三たび吾が身を省みる。」…その省みる項目の三つ目に、「習わざるを伝うる乎」とあります。つまり、しっかり自分の身についていないことを、受け売りで人に教えたのではないか、と毎日反省しているということです。あやふやなこと、自信のないことはしっかり調べてから、求めている人の期待に本当の意味で応えましょう。


 ところで皆さん、高校までは正解にたどり着くことが求められ、大学では正解のない問が増えたと感じませんでしたか。正解のない問を考え続けることを通して、皆さんの頭の中には「知性の樹」とでも呼ぶべき構造ができていると私は考えています。
 幹の部分が、答えのない問を前にして論理的に思考し、判断して行動しようとする、あなた自身の知性の根幹部分です。枝には葉がつき、その中で基本的な知識を加工して、あなたの思考・判断を助ける生成物を作りだし、幹に流しています。
 枝にも、自然科学的思考を助ける枝、人文科学的 枝など(芸術・スポーツ文化学科の場合、音楽・美術・スポーツの理論を支える枝、芸術・スポーツを文化として理解するのを助ける枝、芸術・スポーツの社会的包摂機能を理解するための枝など)、それぞれがさらに分枝を持つ枝があると想像してもらえればいいと思います。大学に入って枝を増やし、葉を繁らせて幹を成長させてきたと思います。
 「基本的な知識」とは、小学校以来、あなたが根から吸収してきたもののことです。
 「葉の中で加工して生まれた生成物」とは、教師や友人、書籍の助けを借りて思索を加え、納得感をもって自分の中に蓄積された「知」そのもののことです。
 ここでも論語が思い出されます。
 「学んで思わざれば則ち罔し。思うて学ばざれば則ち殆し。」
 …書物を読んだり、学問を外から受け入れるばかりで、そのことについてあれこれと思索することがなければ、道理が本当にはわからない。逆に、あれこれと自分勝手に思索するばかりで、先人の言葉や教えを学ぶことをしなければ、自分だけの勝手な考え方に陥ってしまって誤る危険がある…。
 大学では文献を読み、自分の頭でも考え、また、教員や友人との議論を通じて自分にないものを吸収し、さらには地域の人たちとのコミュニケーションを通じて多くのことを学んだと思います。これからも広い視野に立って学び続けてください。
 
 
 私は「知性」というものを可視化すると、今述べたような、構造化された樹になると考えています。皆さんが学位記を手にしたということは、一人一人の頭の中に構築された知性の樹が十分に生い繁ったということです。
 その意味で冒頭に述べたように、誇りと自信を持って社会に出ることができるということを、皆さんに伝えたいと思いました。
 ただ、幹は太い方が迅速に適切な判断が下せます。まだまだ必要な枝があるかも知れません。どうか根から水や基本的栄養を吸収し、多くの葉を広げて幹を太くする努力を怠らないでください。人は学び続ける生き物です。とりわけ教育者になる者は、そのことを忘れないでください。
 
 
 最後になりますが、 「人が人を育てる北海道教育大学」は、人間らしさを象徴する、 「共感できる」  「思い遣ることができる」という能力を大切なものと考え、今後も地域に大事にされる人材を養成していきたいと思います。
 皆さんもどうか、その人間らしさを失わずにそれぞれの道で活躍してください。
 皆さんの今後の飛躍と活躍を祈念して、私の式辞と致します。

 本日は卒業・修了、本当におめでとうございます。
 
平成31年3月15日
北海道教育大学長
蛇 穴 治 夫


 
※論語の部分については『論語』(齋藤 孝 翻訳、ちくま文庫、2016)を参考としました。

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