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大学紹介令和2年度の入学式式辞に代えて~お祝いと期待のメッセージ

北海道教育大学へ入学された皆さん、入学おめでとうございます。

例年であれば、本学関係者と皆さんのご家族共々、入学の喜びを分かち合うところですが、まだまだ終息する気配のない新型コロナウイルス感染症のため、一堂に会しての入学式は取りやめざるを得ませんでした。皆さんの顔を見て話すことができないのはとても残念ですが、まずはウイルスへの対応が第一です。
今年は式辞に代えて、北海道教育大学の教職員を代表して、この場で皆さんにお祝いと期待の言葉を伝えたいと思います。

令和2年度は、教育学部に1,230名、大学院教育学研究科に121名、 そして養護教諭特別別科に35名、 合計 1,386名の新入生を本学に迎えました。これから皆さんはそれぞれの目的に向かって、大学での勉学を開始することになります。4年間というのは過ぎてみればあっという間です。ましてや1年・2年の課程に入学した人はすぐに修了を迎えることになります。余計なお世話かも知れませんが、時間を無駄にしないで欲しいという私の思いを最初にお伝えします。

物事の本質を追究する努力
今世界を巻き込んで新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっています。その煽りを受けて全国の学校が休校となりしばらく経ったときに、新聞を読んでいて中学生(14歳)の投書に目が止まりました。新型コロナウイルスのため休校になり、家で過ごしているときに、ふと学校に行く意味は何だろうという問が浮かび、自分なりに考えて気づいたことを述べたものです。一部抜粋しました。
「学校ですることが家で個人でもできるなら、わざわざ通学する意味は何だろう。今、学校生活と大きく違うのは『嫌い』なものに触れなくなった点だ。学校に行けば苦手な人と顔を合わせ、嫌いな教科も学び、…(中略)学校では勉強だけでなく、人との関わりや課題を乗り越える力、生きていくために必要な力も学ぶのだと、休校体験から気づいた。」(「休校で気付いた 学校に行く意味」、朝日新聞、「声」、2020年3月20日。)
立派な中学生だと思いました。「学校という制度の本質」を自分なりに考え抜き、一つの結論を導いて、自分で納得した上で学校に行こうとしていると、私は読み取りました。
これを読み終えたところで、新入生の皆さんにも、ものごとの本質をじっくり考える時間をたくさん作って欲しいという思いが湧いてきました。これから大学という高等教育機関で学ぶ皆さんには、自らが考えて判断するための基本的な知識と力は身についているはずです。大学では、これまで避けてきた分野にも足を踏み入れて使っていなかった脳を刺激し、面白さを感じ取りながら、知性を鍛えて欲しいと思います。皆さんの頭の中にある、知性の樹が枝を増やしてくれば、ものごとの本質に踏み込んで、(すべての問題にとは言えませんが)自分なりの納得感のある結論を導くことができると思います。そうなったら積極的に大学の先生とそのことで議論してみてください。そこでまた学ぶものがあるはずです。もっと知りたいという欲求も生まれると思います。
北海道教育大学に入学した皆さんにとって、教育とは何か、人間とは地球でどう誕生しどこに向かっているのか、インクルーシブな社会をどう考えたらいいのか、あらゆるものがインターネットでつながるIoT社会は幸福なのか、AIの進化によるシンギュラリティはあるのか・あったらどう生きるのか、温暖化・環境・エネルギー問題にどう対峙すべきなのか、そもそも芸術とは何なのか・何のためにあるのか、スポーツは必要か、人生100年時代をどう生きるのか、など、それぞれの専攻における学びを深めて考えてみてください。将来、自分が教えることになる子どもたち、あるいは様々な困難や不安を抱えている地域の人たちに、自分が身につけた「知」を還元する責任が皆さんにはあると考えます。

「人から学ぶ」 本、仲間…から学ぶ…これはヒトの特性
大学に入学した頃の私自身はどうかと言えば、正直、「無知」「未熟」という言葉がぴったりでした。だからだと思いますが、「『独りであること』『未熟であること』、これが私の二十歳の原点である。」と書かれた広告に惹かれ、思わず『二十歳の原点』(高野悦子、新潮社、1971)という本を手に取りページをめくっていました。「未熟であること。人間は完全なる存在ではないのだ。」「学問―歴史学―私はそれが何であるかを知らない。私は勉強をしていない。遊び好きの大学生であったのだ。」という言葉に続き、先の広告文が記されていました。著者は学生運動が渦巻く時代に生き、結局二十歳で自殺してしまいます。本はその彼女の日記です。日本の政治、大学というところ、人間というものに対し、とことん考えを巡らし、本質的な理解に至ろうともがいていることが、日記であるため直接的に伝わってきました。そして、「新聞を読め、雑誌を読め、小説をよめ、詩をよめ(原文のまま)」と自分の不勉強さを責めると同時に自分自身を鼓舞しています。
今と時代が違っているので、皆さんにとっては必ずしも心に響くものではないかも知れませんが、少なくとも当時の私にとっては、大学4年間、ものごとの本質を捉えるための勉強と思考が必要だと教えられた気がします。それ以来、本を読み、また仲間との付き合いも大事にしました。人から学ぶものもたくさんあります。皆さんも同じような経験をして欲しい気がします。
「人から学ぶ」のは、進化の産物としてのヒトの特性のようです。『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化 – 遺伝子革命〉』(ジョセフ・ヘンリック、白楊社、2019)という本で学びました。
人は「進んで他者から学ぼうとする性質(文化性)」と、「規範によって社会的な繋がりを保って生き延びようとする社会性」を持つことにより、共同体としての「集団脳」を作り上げることができたところに、他の動物とは違う人としての特性があると述べています。生存や繁殖に有利な情報が文化として蓄積されて優れた「集団脳」ができていけば、自分で試行錯誤を繰り返すより、その文化を模倣する方が圧倒的に有利であり、実績のある人に学ぶという社会ができあがることになります。私たちは先人が創り上げてきた文化を学ぶようにできているのです。学生時代という時間を有効に使って先人に学び、自分を鍛えておきましょう。

最後に
最後になりますが、本学は、皆さんの課外活動や留学を積極的に支援しています。さらに後援会からもサークル活動やボランティア活動、海外研修などのために多大な支援を受けています。保護者の皆様方には、後援会に対するご理解・ご協力をいただき、感謝申し上げなければなりません。本当にありがとうございます。
また、多くの企業・団体、同窓会、保護者の皆様、そして教職員の皆様から寄付を賜り、それを「北海道教育大学基金」として修学支援事業を行っています。この中には経済的理由により修学が困難な学生を支援する半期の授業料減免事業と奨学金給付事業、さらに海外留学支援事業が含まれています。そのほか、育英事業、表彰事業、キャンパス指定事業、附属学校・園支援事業等に使わせていただいております。今後益々、様々な面での学生支援が必要になるだろうと考えています。今後ともご理解を賜りたく存じます。

当面は、“新型コロナウイルスに感染しない”、“他人に感染させない”ことを第一に行動してください。
それでは、皆さんが充実した学生生活を送れることを祈念して、私からのお祝いの言葉といたします。
 
令和2年4月8日
北海道教育大学長
蛇 穴 治 夫

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