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大学紹介令和5年度学位記授与式式辞

式辞を贈る田口学長 式辞

 令和5年度の学位記授与式を挙行するにあたり、北海道教育大学を代表して、卒業生・修了生の皆さんにお祝いと期待の言葉を述べたいと思います。

 本日は、後援会、同窓会をはじめとする御来賓の皆様方、そして御家族の皆様方の御参列をいただき、令和五年度の学位記授与式を挙行することができました。皆様に厚く御礼申し上げますとともに、心よりお祝い申し上げます。

 学部卒業生、養護教諭特別別科並びに大学院修了生の皆さん、卒業・修了おめでとうございます。本年度は、学部1,123名、養護教諭特別別科38名、大学院教育学研究科66名、合わせて1,227名の卒業・修了生を社会に送り出します。教員として、公務員として、あるいは民間等で地域社会を支える人間として社会に出る人も、大学院に進学して実践的な指導力や研究力を更に磨く人も、北海道教育大学で学んだことに誇りを持って活躍して欲しいと思います。

 皆さんを前にして、コロナ禍のことを触れないわけにはいかないと思います。学部卒業生の多くは、コロナ禍が始まった令和2年度に入学しました。皆さんは、足掛け四年、コロナ禍の中で大学生活を送ったことになります。振り返ると、入学式は中止になり、授業開始は5月11日まで延期され、キャンパスによって多少異なりましたが、共に学ぶ仲間と直接会う機会が制限された遠隔授業での大学生活の始まりでした。その後は徐々に対面授業を増やしましたが、緊急事態宣言が発出されたり、学内での感染者が増えたりするたびに全面遠隔授業に戻すなど、落ち着かない学生生活であったに違いありません。また、一定期間、課外活動も制限せざるを得ず、やむを得なかったとは言え、心残りだったと思います。

 当時、各キャンパスの教職員は、未曾有のコロナ禍をどう乗り切るか、連日検討を重ねていました。大学と小・中・高等学校の違いなど、あらゆる点を考慮して仕組みを作り、学びを止めないよう努めましたが、「小・中・高等学校では全面的に対面授業をおこなっているのに、なぜ、大学では遠隔授業が中心なのか」という意見が来ると同時に、「感染の危険性が高いのに、なぜ対面授業を行うのか」という意見も来て、大変難しい対応を迫られました。思い返すと、私は、キャンパス長として、また一教員として、学生の皆さんの心中を思うと、いたたまれない気持ちになりました。ただ幸い、教育実習をはじめ実践的な教育は、学校など関係者の方々のご協力もあり、おおむね実施できました。皆さんは、人と会えない時期があったからこそ、リアルな場での人間理解の大切さを身をもって学び、成長できたと確信しています。

 コロナ禍は私たちの社会に何をもたらしたのでしょうか。必ずしもマイナスのことばかりではありません。例えば、ギガ・スクール構想における一人一台端末は、コロナ禍がなければこんなにも早く実現できなかったはずです。端末中のコミュニケーションツールは、オンライン授業だけでなく、対面授業においても、子ども一人ひとりの思考の可視化とクラス全体での共有を容易にし、「協働的な学び」にとって有益な手段となりました1)

 また、オンライン会議やテレワークもたった数年で珍しくなくなりました。コロナ禍を経験して、テクノロジーが「時間」や「距離」そして「場」の概念を変えました。さらに、生活スタイルの変化によって、自分と向き合う時間が長くなり、生き方の軸が、組織や自分の外側ではなく内側にシフトした人は少なくないようです。例えば、令和5年4月発表の内閣府の調査結果2)によると、働く上で重視するものとして「テレワークやフレックスタイムなど柔軟な働き方ができること」と答えている就業者は、全体では1割5分に留まっていますが、テレワーク経験者では4割にのぼります。他の調査結果3)では、会社や組織で出世したい人は減り、ワークライフバランスを大切にしたい人が増えています。大げさな言い方が許されるなら、コロナ禍は、社会の在り方や人々の価値観を変えました。皆さんは、これからその「アフターコロナ」の社会に出ていきますが、個人の生活を充実させつつ、新たな未来を作っていく社会的責任もあります。

 では、皆さんの多くが50歳近くになる2050年、社会はどうなっているのでしょうか。このまま何もしなければ、否応なく「訪れるであろう未来」は想像に難くありません。高齢化や生産年齢人口の減少で社会機能の維持が困難になったり、少数の都市部だけに人口が集中し地方が更に衰退したり、情報技術の進展の点で言えば、SNS上では同じ考えの人たちだけが繋がり社会的分断が進んだり、といったことが懸念されます4)。また、各種データが示唆するように、経済格差が子どもの学力格差につながる危惧もあります。「訪れるであろう未来」ではなく「作りたい未来」に向けて、私たち一人一人が踏み出す必要があります。

 さて、人工知能AIが身近になってきましたが、京都大学と日立製作所による共同研究「AIを活用した持続可能な日本の未来に向けた政策提言」5-7)に大変興味を持ちました。2017年発表のその研究では、人口や財政、社会保障、環境の持続可能性、雇用の維持、格差解消、幸福、健康といった観点から、「少子化」「環境破壊」など約150の社会的要因からなる因果関係モデルを作った上で、AIによるシミュレーションで2052年までの約二万通りの未来シナリオの予測を行いました。その予測から、日本が持続可能な国になるための政策が提言されました。

 その未来シナリオは、大別すると、「都市集中型」と「地方分散型」の二つであり、どちらを選択するかが持続可能性にとっての本質でした。具体的には、「都市集中型」は、国の財政は持ち直すものの、地方が衰退し、格差が拡大し、幸福度が低下するのに対し、「地方分散型」は、出生率が持ち直し、格差は縮小し、健康寿命や幸福感は上昇します。ただし、地域内の経済循環が十分機能しないと、国の財政や環境を悪化させる恐れがあり、種々の政策の継続的実行が必要という結論でした。要は、相対的には、人口や格差、幸福感という点において、「地方分散型」が持続可能という点で望ましいという提言です。この提言は、地方で暮らす私たちに希望を与えてくれるものではないでしょうか。

 本学のミッションを一言で言うと、教員の養成と地域人材の育成を通して北海道を中心とした地域社会の発展に貢献することです。言い換えれば、本学は、持続可能な地方分散型社会に貢献する大学と言っても過言ではありません。ここにいる卒業生・修了生の一人ひとりが地域社会に期待されています。その期待が見える形で示されたのが、コロナ禍の最中に地域住民の方々から学生の皆さんに寄せられた食料品・日用品の支援や経済的支援であったに違いありません。今度は皆さんが恩を返す番です。

 北海道教育大学は、教員養成課程・学科・大学院のいずれであっても「実践と理論の往還」を重視した教育研究活動を展開してきました。みなさんには、各々が専攻した分野の力量に加えて、実践的指導力や研究力、そして教育マインドに裏打ちされた高度なコミュニケーション力を有する強みがあります。自信をもって各々の地域社会で活躍してください。

 最後になりますが、後援会及び同窓会の会員の皆様、また経営協議会委員の皆様、御家族の皆様、そして地域住民の皆様には日頃から本学の教育・研究に御理解を賜り、北海道教育大学基金・修学支援事業をはじめ様々な形での御支援をいただいているところです。この場を借りて心より感謝申し上げます。卒業・修了される皆さんも実際に様々な形で支援を受けたと思います。そのことに対する感謝の気持ちを忘れず、これからの人生を送って下さい。みなさんの未来が充実したものとなることを心から祈念して、私の式辞といたします。

学生の様子
令和6年3月15日       
北海道教育大学長 田口 哲











1) 水川 和彦,<主体的・対話的で深い学び>×(コロナ禍+GIGA)×3 年=「学びの構造改革」,Rimse((財)理数教育研究所),No.38 pp.12-16 (2023)
2) 内閣府,第6回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査,令和5年4月19日
3) ADK生活者総合調査2023,株式会社 ADK マーケティング・ソリューション,令和5年11月28日
4) 国立研究開発法人 科学技術振興機構,課題解決の対話から2050年に向けてつむぐ 「来るだろう未来」から「つくりたい未来」へ,令和3年3月
5) 国立大学法人京都大学,株式会社日立製作所,プレスリリース AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言 ―国や自治体の戦略的な政策決定への活用をめざす―,2017 年 9 月 5 日
6) 嶺 竜治,持続可能な未来の実現に資する「政策提言AI」,日立評論,Vol.101 No.03 pp.386-387 (2019)
7) 広井 良典,福田 幸二,AI を活用した政策提言と分散型社会の構想,農林業問題研究,Vol.57 No.01 pp.8-14 (2021)

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