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令和元年度学位記・修了証書授与式の式辞に代えて

 学部卒業、養護教諭特別別科並びに大学院修了の皆さん、卒業・修了、本当におめでとうございます。本年度は1,139人が学部を卒業しました。これに35人の養護教諭特別別科修了生、111人の大学院修了生を加えて、合計1,285人が本学を巣立ったことになります。
 
 この度の新型コロナウイルスの感染拡大により、学位記・修了証書授与式は、中止せざるを得ませんでしたが、本来であれば、父母の皆さんとともに大学関係者が一堂に集って、皆さんの卒業・修了を祝い、共にその喜びを共有するはずでした。例年、どこのキャンパスでも在学生に祝福される卒業・修了生の姿があり、笑顔と笑いに包まれたグループがあれば、涙する在学生の肩に手をのせる卒業生の姿もあり、4年間の人間関係が目に浮かぶようでした。今年はそんな姿を見ることができず、私としても寂しい思いです。
 晴れ着を身にまとった皆さんの姿を想像しながら、本学の教職員を代表し卒業生・修了生の皆さんにお祝いと期待の言葉を述べたいと思います。
 
卒業・修了という人生の節目 ―過去を振り返り、未来に思いを馳せる―
 卒業・修了を境にいよいよ自立して生きていくことを思えば、卒業・修了式は人生における節目の一つに過ぎないとはいえ、これまでを振り返り、これからの自分の人生を考えて決意を新たにするいい機会です。
 皆さんはこれまで決して一人で生きてきたわけではありません。あなたの知らないところで、あるいはあなたの記憶にないところで、親御さんがどれだけあなた方に愛情を注いできたことか。今、自らの判断で進む方向を決めることができるようになったのも、小学校・中学校・高等学校・大学であなた方に知識を授け、物事の道理を説き、考え方を鍛えてくれた、先生方をはじめとする多くの大人と仲間がいたからに相違ありません。そのことを思い起こし、今度は自分の番だという意識に転換していって欲しいと思います。
 これから皆さんは、自分が身につけたものを社会や次の世代を担う子どもたちのために還元していかなくてはなりません。これから進学する人も、すぐにそういう立場に置かれることになります。
 皆さんがこれから生きていく世の中は急速な変化の中にあります。IoT(Internet of Things)で全ての人と物が繋がり、様々な知識や情報が瞬時に共有される社会(Society5.0)への変革期です。グローバル化がこれに拍車をかけています。つまり、皆さん自身が育った社会とは大きく異なってくることが予想され、それに伴って人の価値観にも変化が生じるかもしれません。さらには、急速な技術革新により、遠からずSingularity―AIが人間の能力を真の意味で超える特異点―が訪れるという人もいます。私自身にはそのことを判断する資格はありませんが、いずれにしても、人間が担う仕事の種類や質が大きく変わるであろうことは他の多くの研究者が主張しています。
 そのような社会に向き合って生きていかなければならない皆さんに、次の三つのことを考えてみて欲しいと思っています。それらは、どんな技術革新があろうと、人間にしかできないことだと考えています。一つ目には、正確な知識と客観的な事実を基に論理的に考え、社会の複雑な問題に挑んで欲しいということです。二つ目は、他者を思いやる能力と共感力を失うことなく、周囲の人間と協働的に生き続け、インクルーシブ社会実現に寄与して欲しいということです。そして三つ目は、日本全体で課題となっている、教員志望者の減少への対応です。教育という、人間が行う営みは、AIに決して取って代わられるようなものではないと、私は信じています。
〈正確な知識と客観的事実に基づく論理的思考の重要性〉
 正確な知識、客観的事実、論理的思考の重要性については、今回の新型コロナウイルス感染拡大に関わる社会の動きを見ても理解することができます。「新型」ということは専門家にとっても「未知」なものであり、ましてや多くの素人にとっては「無知」であることが当たり前で、そのために様々な言説と憶測が流れ、また現実の感染拡大を目の当たりにして、多くの人は恐怖を感じました。また、判断に必要な客観的事実がまだ少ない段階では、データに基づく論理的帰結が明確に示されないことから、ある判断が批判される一方で、適切な対処法、及び統一性のある見解や見通しもなかなか提供されないという状況がありました。さらには、恐怖心が煽られれば、SNSを通じたデマなどでも人は右往左往してしまい、感染者・感染地域という差別・偏見から国あるいは人種間の衝突にもつながりかねない状況が生まれたことは、皆さんも報道を見て知っていることと思います。
 「無知」であること自体は恥じることではなく、それを放置することが問題です。これから教職について教師となる人も、公務員や企業人として社会に貢献していく人も、今回の件を教訓に学び続けることを忘れず、いつでも正確な知識と客観的事実を求め、冷静に論理的に思考・判断して社会を牽引していって欲しいと願っています。客観的事実を基に議論することは、大学の学びの中で常に要求され、皆さんの思考力・判断力は鍛えられているはずです。
〈思いやりと共感〉
 二つ目に掲げた「人を思いやる」こと、そしてまた共感を抱く能力は人に限定されたものではなく、広く哺乳類、そして鳥類にも観察されると言われています。しかし、その能力を教育によって強めることができるのは、恐らく人間だけに備わった能力なのだと思います。
 現代はインクルーシブ社会の実現が求められています。その土台となるのが「人を思いやる能力」です。北海道教育大学で学んだ皆さんは、それぞれの課程・専攻の学びの中で、たとえば特別支援教育、障がい者スポーツ・芸術活動、多様な年齢層と国の人々との関わりなどを通じて、その能力を高める経験をたくさん積んできました。真の思いやりと共感に裏付けられた協力的な社会の実現のために、自らの能力を発展させ、自分の周りにいる人間の「人を思いやる能力」開発にも力を発揮して欲しいと思います。社会の中の個人は、仲間の援助と保護を求めています。ヒトがこの地球上に繁栄できたのも、思いやりと共感を強く発揮できる生き物だったからではないでしょうか。岩見沢校の専門である芸術とスポーツ文化は、共感や人を結びつける力という意味では、とても意味深い働きをしています。
〈教員志望者の減少を食い止めるための対応〉
 三つ目の教員志望者の減少という問題は深刻な問題です。教職とは、上にも述べたように、思いやりと共感力にあふれた人間だからこそ担える、専門的な尊い職業です。そのことを示す2つの事例を新聞記事から拾ってみました。
 1つは、ブレイディ・みかこさんのインタビュー記事の中から拾った、学校の先生の素晴らしさに触れた部分です。ブレイディさんは、ご存じだと思いますが、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社,2019)の著者です。そのエッセンスを取り出してみると、およそ次のようになります。
  「校内暴力で荒れていた中学校時代には悪い友達もいた。高校では、授業をさぼってバンド活動にいそしむ『不良』だった。そんな自分の中に、読解力と文を書く能力があることを見出し、『勉強して、ものを書け』と、何度も家を訪ねて気にかけてくれた国語の先生がいた。」[朝日新聞(令和2年3月14日)より抜粋・編集]
 2つ目はこんな投書です。
 「私は人間関係に疲れ、死への憧れを抱き、日増しにその思いから抜け出せなくなっていく恐怖から…誰か他人にも話を聞いて欲しかった。」「この先生にならと勇気を出して一歩踏み出した。」「今の私があるのは先生のおかげだ。…先生のような強く優しい女性になりたい。」[「私を救ってくれた高校の先生」、朝日新聞(平成元年11月2日)より抜粋・編集(…部の記述は、省略。)]
 これは現在大学で学ぶ筆者が、高校時代の先生を思って綴った投書です。
 教師の仕事は確かに大変だと思います。しかし、上に紹介したように、教師の、人の長所を見抜き、親とは別の価値観をもとに困難を乗り越えられるような手助けができる能力は、教科内容だけでなく、人そのものの理解に必要な専門教育を受けた「専門職業人」だからこそ持ち得る能力であり、教師とはとても尊くやり甲斐のある仕事だと私は考えています。
 だからこそ私は、教職を目指して本学で学んだ人たちに、色々な困難があっても当初の思いを遂げて欲しいと願っています。そのこととの関連で、本学卒業生に関してこんなデータがあることを知り、少し嬉しい思いを抱きました。「卒業後民間・公務員に就職した者のうち、約5%の人が5年以内に教員に転職している」というものです。
 今教師としての自信が持てなくて教職に就かないとしても、一度社会の中で揉まれ、あるいは自分の子育てを通じて、もう一度教職のやり甲斐を感じたなら、是非挑戦してください。
 その一方で、これから教職に就く卒業生の皆さんには、いつか、自分の経験に基づいて、教職の難しさ・苦労、そして苦悩がある一方で、自分がどのように成長できたか、苦労の後にある満足感ややり甲斐など、積極的に発信して欲しいと思います。後輩を元気づけることになります。
 さらに、将来、本学を卒業・修了する皆さんの中から教員養成を目的とする大学・学部の教員として活躍する人が生まれることにも期待しています。教職の経験を十分に積み、もう一度大学で学び直し、研究力を磨く機会を作って挑戦してください。
 学科を卒業する皆さんには直接関係のない話だと捉えられたかもしれませんが、皆さんの、地域に貢献する仕事は高校生や中学生の地域学習やキャリア教育の中ではとても大切なテーマとなります。子どもや高校生と関わる機会があったら、自分の仕事の価値・やり甲斐を伝えることはもちろんだと思いますが、学校の先生の大切さなども併せて話してみてください。
 教職志望者減少の問題は、私を含め教員養成を担う大学人全体の課題であることも認識しています。本学でも教育委員会や学生からの意見を基にカリキュラム改革に取り組んでいる途中です。また、高校生に向けても新たな情報発信と教員の尊さ・やり甲斐を伝える取り組みを行う予定で、教育委員会とも一緒になって準備もしています。皆さんの力添えも是非お願いします。
 
最後に
 最後になりますが、後援会及び同窓会の会員の皆様、また経営協議会委員の皆様、そして北海道教育大学基金へご寄付をいただいた多くの寄付者の方々には大変感謝申し上げます。様々な面で本学並びに学生の成長を支えていただきました。
 卒業・修了される皆さんも、その方々への感謝の気持ちを忘れずこれからの人生を送ってください。
 皆さんの活躍を祈っています。
 
                    令和2年3月23日
                      北海道教育大学長
                         蛇 穴 治 夫

 

 
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