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学長 令和2年度学位記授与式式辞

 
 式辞

 令和2年度の学位記授与式を挙行するにあたり、北海道教育大学の教職員を代表して卒業生・修了生の皆さんにお祝いと期待の言葉を述べたいと思います。

 学部卒業、養護教諭特別別科並びに大学院修了の皆さん、卒業・修了、本当におめでとうございます。


 本年度は1,310人の卒業・修了生を世に送り出すことになりました。今、世の中はSDG’sやコロナ禍からの経済復活を目指すグリーンリカバリー、そしてデジタルトランスフォーメーションへの対応など、新しい動きが加速しています。そこでは一人一人の知を結集して様々な課題を乗り越えていかなくてはなりません。皆さんはその一人となります。
 本日、卒業・修了という節目を迎えて一番ほっとしているのは、皆さんの親御さんではないかと思います。今回、父母の参列を遠慮してもらわなければなりませんでしたので、皆さん一人一人が、自分の今後の決意を述べるとともに、これまでの精神的・経済的支えに対する感謝の気持ちを伝えてもらえればいいと思います。親の愛情無くして皆さんにとっての「今の自分」はありません。

 さて、新型コロナウイルス感染症の終わりがまだ見えません。皆さんの大学生活最後の一年、「こんなはずじゃなかった。」との思いが交錯しているでしょう。「最後の一年、仲間とやれることはもっとあった。」、「卒論だってもっともっと打ち込んで頑張るはずだった。」、「バイトが無くてどうしたらいいんだ。」、「大学からの給付金、悪いけど焼け石に水だよね。」。ほかにもいろんな声が聞こえてきます。
 大学にとっても、人との接触をこれだけ避けなければならない事態など、想定したこともありません。本来であれば、授業だけでなく、学生同士あるいは教員との議論、人間的なつきあいなどがあって、人として成熟していく場が大学だろうと思います。しかしながら、対面を避けなくてはならないと語られる中、先生方も職員も手探り状態でした。それでもオンライン授業を含め、今できることから始めて、修正・改善を繰り返し、感染状況に合わせた対応を取ってきました。皆さんにとっては、十分な質と量の学修が保証されなかったと感じているかもしれません。オンラインでは「集中できない」「質が低い」という厳しい意見も寄せられました。大学も改善に取り組み、教育の目的が十分に達成できるよう今後も努力を重ねたいと思います。

 この度の新型コロナウイルス感染症に関わって、皆さんも色々と考えさせられる場面があったと思いますがどうですか。しかしそのことは、事実に基づいて考え、判断することの大切さについて光を当てることにもなったと、私は感じています。そのことを少し振り返ってみたいと思います。
 「命か経済活動か」という問題。「感染者とその家族に向けた、人々の振る舞い」に関する問題。具体例を挙げるまでもなく、皆さんもいくつかの出来事を思い起こすことができるでしょう。それらにより、心を揺さぶられませんでしたか。
 命と経済活動の問題は、突き詰めて考えてみれば対立的な関係ではなく、どちらも人間が生きていけるかどうかという「命の問題」に帰着させて考えられるような気がします。対立を煽るのではなく、冷静に知恵を出し合って前に進まなくてはなりません。
 感染者を「責める」「中傷する」「差別する」、さらにはネットを使って「バッシングする」「デマを流す」という問題についてはどうですか。その根の部分に恐怖心というものがあるだけに難しい問題です。感染者を責めたくなってしまう気持ち。そして、誰からうつされたのかという犯人捜し。その過程で憶測が憶測を呼んでデマが生まれ、バッシングにもつながってしまうということなのでしょう。これは人の本性をどう考えるか、という問題を私に突きつけているように感じ、しばらく頭を悩ませました。
 そんなとき興味深い本に出会いました。ハンス・ロスリングという医師が書いた『ファクトフルネス』という本です(注)。人が持っている10個の本能を取り上げ、それらが「事実に基づいて世界を見る目」を曇らせているという事例を取り上げています。先ほどの例は「恐怖本能」と「犯人捜し本能」と関係がありそうです。人は、一度恐怖に囚われてしまうと事実を見る余裕を失い、判断力が鈍ると言います。また、人には誰かに罪を着せたいという本能が強く根付いていて、犯人を決めつけて思考が止まり、本当の原因に目を向けることをやめてしまうということも述べています。このような本能を抑え込まなければ、事実に基づいて正しく世界を見ることができないという話に目が覚めました。同時に、少しささくれていた私の心が和んだように思います。

 皆さんには事実に基づいて世界を見る目が既に備わっています。学んだ分野によっては多くの文献、古文書などを読んだ人がいれば、実験や調査によりデータ収集に明け暮れた人もいるでしょう。文献に書かれたこと、実験・調査で得られたデータ、これらはいずれも客観的な事実、エビデンスです。皆さんはそのような事実に対して、過去の解釈を参照しながら自分の新しい解釈を加え、新たな知見として人の評価を仰ぐという方法論を学んだと思います。
 人が何かを主張したとき、何を根拠にそのような見解に至ったのか、また、その根拠は今の問題を考えるときに適切なものなのか、適切な根拠だとして、それを基にした判断が妥当なのか、そういうことを常に考えることができる頭脳を持っていることを意味します。
 新型コロナウイルスに関して語られる事柄についても、根拠のない、あるいは疑わしい話に、いちいちイライラするのはやめましょう。そして、事実を基に見る目を、もっと有効に働かせるために、広い視野から問題を俯瞰して捉えることができるように、これまで避けていた領域にも挑戦してもらいたいと思っています。ハードルの高い専門書だけでなく、多様な人と交わる、小説や新書を読むなど入り口はいくつでもあります。思考を豊かにする材料をたくさん持つことは、個人的な感想ですが、対立を深めるよりもむしろ穏やかな心を生むような気がするし、人をどこかで信じることができる人間に導びいてくれるような気がします。新型コロナウイルス感染症により人生の一部が欠落してしまったと感じているかもしれませんが、皆さんの人生はまだまだこれからです。少し先の未来に目を向けて賢く生きていきましょう。
 大学はこれからも皆さんを応援しています。学び直したくなったとき、後輩のことが気がかりになったとき、いつでも訪ねてきてください。

 本日は卒業・修了おめでとうございます。皆さんお元気で。





 
        令和3年3月15日
            北海道教育大学長
             蛇 穴 治 夫
 
注 『FACTFULNESS―10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』、ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、上杉周作、関美和訳、日経BP、2019。

 

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